イヌイットの伝統と誇りが一針一針に込められた、素朴で力づよい「壁かけ」コレクション。新たに撮影した壁かけ21点、人形23点を追加収録した待望の愛蔵版。


 

About

愛蔵版 イヌイットの壁かけ 氷原のくらしと布絵
著者名:岩崎昌子
​発行:誠文堂新光社
定価:本体2,800円+税
ページ数:184ページ(オールカラー)
判型:B5変形判(247×185mm)
仕様:並製、函入り
ISBN978-4-416-61768-7

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Review

 

 本書に魅了されたクリエイターたちのコメントを紹介します。

 

安西水丸(イラストレーター)

ああ、絵が描きたい、そんな気持ちにさせる素晴らしい本

イヌイットはカナダの北方やアラスカなどの極北の地で暮している。一年の三分の二が、ほとんど太隔の昇らない冬の季節で、短い夏は、夜になっても太陽が沈まないという。そんな厳しい自然のなかで、イヌイットの女性たちは、狩りに出かけた夫や父親たちを待ちながら毛皮をなめして、一針一針家族のためのバーカー(防寒着)を縫ってきた。
 しかし彼らの時代も近代化され、生活も大きく変わった。バーカーの生地も、毛皮から毛布のような厚手のダッフル地に変り、その色とりどりの端切れからイヌイットの壁かけは生れている。
 ぼくがはじめてイヌイットの壁かけを見たのは、カナダのナイアガラの滝近くの土産店だった。それはカヌーに乗ったイヌイットがアザラシやカリプーの狩りをしているところの絵柄で、すごく気に入ってすぐに購入した。もちろん今も大切にしている。
 この本と書店で出会ったのは三年ほど前のことで、ページをめくった瞬間に圧倒された。色といい形といい、そこにはぼくの感じている絵を描くということの心髄があり、暖かさと愛情があった。ぼくはイラストレーターなので、これからイラストレーターを目指す若い人たちに、今までずいぷんこの本を勧めた。ぼく自身、時々ベージをめくることもある。ああ、絵が描きたい、そんな気持ちにさせる素晴 しい本だ。

〜連載「本との話」『DTP WORLD』(ボーンデジタル)掲載、旧版への書評より〜

 

皆川 明(ミナ ペルホネン)

この本は私の心の手を素手にしてくれる一冊だ。
生き物、道具、暮らしの風景。
イヌイットの暮らしに流れているだろう柔らかな心と、
自然の厳しさをひょうひょうと受け止める生命力の佇まいを
感じさせてくれる。

 

谷口広樹(アーティスト、東京工芸大学教授)

この本のどのタペストリーもイヌイットたちの暮らしに登場する人や動物や日常で使う道具たちがなんとも言えないユーモラスな形になって、生き生きととてもキュートに表現され、ただ観ているだけで癒され穏やかな気持ちにさせてくれます。この本一冊であなたの人生が軽やかになると言っても過言ではありません。

イヌイットの表現に触れると、私の心はとても明るくなり、精神がぱぁっと解放されるのです。と同時に脳に重たい詰め物をされてしまうので厄介でもあります。というのも、彼女らの表現を可愛らしいという一言で片づけてしまえない自分がいるからなのです。むしろ私にとっては、観ていると気持ちがざわざわとしてきて、いてもたってもいられなくなってしまうのです。もちろん表現のお手本として素晴らしい教科書となるのですが、お前の表現はそれでいいのか?と常にクリエイティビティの根本的な在り方を問い質してくる存在でもあるからなのです。

なぜそうなるのでしょう。それはそこに「ほんとうのこと」が横たわっているからです。恐らく彼女らは可愛くしようなんて微塵も思っていないのです。対峙している世界を観えるように感じるように正直に表そうとしているからこそ、底力を持つ純粋無垢な作品となるのでしょう。それ故に何かを示唆する存在となるのだと思います。

イヌイットたちの表現の魅力は、素朴であるということに尽きますが、「素朴」とはただ単純なことではありません。辞書によれば、「飾り氣がなく、ありのままな・こと(さま)」とあります。つまり「真実」であり、「本質」であるということです。

時代が進めば進化するというのは幻想であり、逆に近年になって、プリミティブなものに影響を受けるということは往々にしてあります。イヌイットの作品には、現代でありながらこの原始的なクリエイティビティの源が潜んでいます。作り手としては、そこにほっこりとしながらも魂を揺さぶられる何かを発見してしまうのです。イヌイットの美術は、フォークアートに分類されますが、その本質は、そうしたファインアート界の動きに影響されないことにあり、昨今の美術的動向が西洋の価値観に左右されてしまう中で、純粋にそうしたものを払拭してしまう力を持っています。アンリ・ルソーに代表される素朴派とも一線を画すイヌイットの美術に触れると、表現とはこういったことなんだよなぁという根源的で、むしろ鋭い創造のエッセンスを感じてしまうのです。多くの者がついアート界の動向を探るというような些末なことに走ってしまいますが、そういうことには何ら左右されない強靭な精神がここにはあるのです。

結局一番大事なことは、理屈抜きに彼らの思想を享受し、無意識に無邪気に愉しめばいいということです。イヌイットたちが作品を通して多くのことを示唆してくれているのですから。

 


 

Gallery

 

復刊にあたり「壁かけ」21点と「人形」23点を追加収録しました。ここでは収録作品の一部をご紹介します。

1. あざらしを解体する
エヴァ・ジャーカ作
48 × 71 cm
​所蔵:北海道立北方民族博物館
撮影:齋藤進

2. 二頭の北極熊が氷原を行く
マーサ・ティキック作
72 × 56 cm
​所蔵:北海道立北方民族博物館
撮影:齋藤進

3. お祝い
35 × 41 cm
撮影:森下暢亮

4. ご夫婦人形
左:高さ61cm 右:高さ65cm
​所蔵:北海道立北方民族博物館
撮影:森下暢亮


 

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