BOOKS
2009/01/19
日本語活字ものがたり
小宮山博史

日本語活字ものがたり
Published: 2009/01/19
Price: 定価2,640円/2.400+tax jp yen
ISBN 978-4-416-60902-6
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日本語活字ものがたり―草創期の人と書体
小宮山博史 著
A5判,272ページ,2009年1月刊

日本語タイポグラフィ草創期における人々の苦労や技術の展開をひもとき,私たちが普段目にしている活字の成り立ちを追いかける。明朝体が定着した経緯,日本文字のかたちが活字の四角い枠におさめられる過程,活字製作の現場を支えてきた彫り師たちの声など,日本語のタイポグラフィを支える現場の歴史を知る恰好の教科書。

目次

第1話 本木昌造・平野富二、危機一髪―幕府輸送船長崎丸二号遭難始末
第2話 明朝体が上海からやってきた―ウイリアム・ギャンブルの来崎
第3話 移転を繰り返すミッションプレス―美華書館地址考
第4話 四角の中に押し込めること―築地活版の仮名書体
第5話 ゴマンとある漢字―増え続ける漢字数
第6話 漢字に背番号―一九世紀のコードポイント
第7話 Meは横組み 拙者は縦組み―幕末・明治の和欧混植
第8話 無名無冠の種字彫師―活字書体を支えた職人達
第9話 毛筆手書きの再現はうまくいくのか―連綿体仮名活字の開発
第10話 アイディアは秀、字形は不可―偏傍・冠脚を組み合わせる分合活字</small>

序文より

西洋の近代的活字製法と活版印刷術が日本に導入されてから140年になります。その短くはない時間の中で、日本語の活字は多くの職人や活字設計者の手で改良を加えられて現在に至っています。日本の近代活字史では多いとはいえない研究者の地道な努力によって、全体像がじょじょに明らかになってきましたが、それでもすべてが解明されたというわけではありません。

長い間活字史の書き出しは、阿蘭陀通詞本木昌造の試行錯誤の苦闘によって日本独自の活字群が生まれたとするのが一般的でした。しかし漢字活字や仮名活字はすでにその何十年も前からヨーロッパでは開発が進んでいたという事実を知れば、きっと驚かれるに違いありません。

あるものはパリの東洋学者のアイディアで開発され、あるものはベルリンの活字鋳造業者によって長い時間をかけて作られましたし、イギリス人宣教師とアメリカ人宣教師は香港で鋼鉄の種字材を相手に苦闘していました。そのほかにローマの布教聖省でもインドの内陸部でも、マカオのイギリス東インド会社でも、そしてはるか遠い中国四川省でも開発されています。それらの活字の一部が上海に集積され、万策つきた本木昌造の要請によってアメリカ人の印刷技師が一八六九年、極東のはずれの日本に伝えたものです。(中略)その国独自の文字活字ももとをただせば国際的環境の中で発想され、開発されたものなのです。

金属活字は活字合金の小さな長方体にすぎませんが、活字表面に鋳造された文字に想いをいたせば、そこには活字を巡る人びとの意外な邂逅があり、開発にかけた情熱と苦闘のあとを見ることができます。ここでは草剏期の人や書体に焦点をあて、日本人や外国人が日本語活字に立ち向かう様子をお話ししようと考えています。これらは活字史の本にかならず書かれるようなテーマや内容ではなく、まったく書かれないか、書かれても数行で通りすぎてしまうものです。しかしそのような些細な事柄の積み重ねが、豊かな活字世界を構築してきたことも事実です。活字史の本流ではなく、傍流のちょっとしたエピソードをお伝えすることで、活字に興味をもってくだされば、わたくしの役目は充分に果たされたと思います。

著者プロフィール

小宮山博史(こみやま・ひろし)
1943年新宿生まれ。佐藤敬之輔に師事し書体設計と和文書体史の基礎を学ぶ。佐藤没後研究所を引き継ぎ、書体設計と書体史研究を柱に活動。書体設計では平成明朝体、大日本スクリーン「日本の活字書体名作精選」他を制作。書体史の成果を『本と活字の歴史事典』(柏書房)、『明朝体活字字形一覧』(文化庁)等に発表。武蔵野美術大学他の非常勤講師。印刷史研究会会員。