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グラフィックデザインにおける展覧会とはなんだろうか?
国内の多くのグラフィックデザイナーにとって,展覧会とは自発的な態度表明や意見発信のための方法ではなく,企業や美術館からのコミッションワークのいち形式にすぎなくなっているようだ。しかし,その一方,海外の状況を見渡せば,従来のデザイン展というフォーマットを上書きするような意欲的な試みが,デザイナー自身によって行われている。これらのプロジェクトでは展覧会や芸術展を擬制しつつ従属すべき形式と捉えずに,展覧会というフォーマットそれ自体を生産や流通のためのツールとして用いているのである。そのような実践はいかにしてデザインされ,その背景にはどのような思想があるのだろうか。
本特集では,1963年にスタートし今年第27回を迎えた,グラフィックデザインの展覧会としてはもっとも古い歴史を持つ「ブルノ国際グラフィックデザイン・ビエンナーレ」の紹介を軸に,ヨーロッパ,アメリカ,そして韓国でのグラフィックデザインと展覧会の試みを紹介し,グラフィックデザインと展覧会について,今一度考えるきっかけとしたい。
企画・構成:後藤哲也,アイデア編集部
デザイン:加藤賢策,北岡誠吾(LABORATORIES)
今回のビエンナーレのテーマとなったのは「現代グラフィックデザインの変容と現状に対応すること(すなわち,多数性と多様性,曖昧性,そして明らかな浅薄性について)」。全体の構成は,コンペティション入選作品の展示「International Exhibition」を入り口に,「A Body of Work」「Zdeněk Ziegler」「Which Mirror Do You Want to Lick?」という4つの展覧会プログラムと,公募展「OFF Program」,ライブラリースペース「The Study Room」,そして3日間の「Biennial Talks」という計7つのプログラムによって組み立てられた。
第1部では,キュレーターのインタビューと作品解説,そして,本誌のために再構成された「Which Mirror Do You Want to Lick?」の綴じ込み冊子と「The Study Room」のコンプリートリストを通じて,現在のグラフィックデザインの輪郭を捉えるブルノビエンナーレでの試みについて紹介する。
キュレーターインタビュー:Radim Peško, Tomáš Celizna, Adam Macháček
International Exhibition
入選者インタビュー:秋山伸
A Body of Work
Zdeněk Ziegler
Study Room
Which Mirror Do You Want to Lick?
[綴じ込み冊子]Which Mirror Do You Want to Lick? 編集・デザイン : Åbäke
Off Program
デザインのための菌床としての展覧会
文 : 後藤哲也
冷戦構造の崩壊とそれに続いたグローバル資本主義のなかで,かつての共産圏や「発展途上国」で継続されてきた国際コンペティションや展覧会はその意義や方針の見直しを迫られてきた。2000年代以降,有無を言わさぬ状況の変化に背中を押され,各地のコンペティションはそれぞれに転換の道を探り出している。第2部では,ブルノと創設の時期や開催サイクルをほぼ同じくし,戦後の国際コンペティションの双璧をなしてきたポーランドのワルシャワ国際ポスター・ビエンナーレをはじめ,アメリカやアジアでのデザイナー/キュレーターの実践を紹介する。
アメリカとヨーロッパにおけるグラフィックデザイン展の現在地
インタビュー : Jon Sueda
ワルシャワ国際ポスター・ビエンナーレの実践的探求
インタビュー : David Crowley
ソウル・グラフィックデザイン変革の10年間を展覧会化する試み
インタビュー : Min Choi, Hyungjin Kim
第3部では,日本のグラフィックデザインにおける展覧会の歴史とコレクションの現状を展望する。年表から見えてくるのは政府による産業振興政策,百貨店や新聞社による文化事業,デザイナー団体による啓蒙・営業活動,それぞれにおいて展覧会というフォーマットが運用されてきた流れである。
オンラインの情報空間が広がったことにより,物理的な空間としての展覧会は相対的にその特殊性が問われ,20世紀デザインの歴史的成果をコレクション,リサーチ,発表する場としてのスペースも重要になりつつある。デザインの展覧会はどのように歩んできたのか。そしてデザインのアーカイブやキュレーションにおける現代的課題とはなにか。
日本展覧会年表
展覧会とコレクション デザインと社会の「これから」のために
文 : 久慈達也
A door must be either shut or open?
態度表明としての展覧会~グラフィックデザインが死んだ後に~
デザインの巫術
文 : 後藤哲也
西洋のモダンデザインの論理が,地域固有のデザイン文化を飲み込みつつある現在,このような状況に対抗するオリタナティブな視座を与えてくれる書物とはなんだろうか? 第27回ブルノビエンナーレで弊誌チームの呼びかけに応えた,文化横断的な実践を積み上げてきたデザイナーたちが提示する38冊のブックリストを紹介する。
タブラ・ラサ : 再接続する世界あるいはデザイン・マニエリスム
文 : 室賀清徳+イエン・ライナム
選書と解説
世界の秩序化/文化間を接続する/空間の配置/身振り/象徴と文化構築/空間とテクスチャ/モダニティの構築/ポイエシス/現代文化の編成/言語を視覚化する/分析
【寄稿者】聶永真/アバケ/キム・キョンソン/ヤーレン・ユー / フォーリン・ポリシー・デザイングループ/松田行正/室賀清徳/毛灼然/レナード・コーレン/フィリップ・エッガー/大原大次郎/キャリン・アオノ/向井周太郎/白井敬尚/立花文穂/広煜/杉浦康平/原研哉/ヘルムート・シュミット/山口信博/羽良多平吉/イェンス・ミュラー/秋山伸/小馬哥+ 橙子/王弘志/後藤哲也/ジョン・ワーウィッカー/s o + b a / アレックス・ソンダーレッガー+スザンナ・ベアー/ピーター・ビラク/ライアン・ハーゲマン/服部一成/ナ・キム/キルティ・トリヴェディ/イエン・ライナム/呂敬人/サンティ・ローワンチャイ/クリス・ロー/ランディ・ナカムラ/スルキ&ミン
ものをならべるというシンプルな行為,そしてそこに鑑賞者自身が美や意味を見出すという行為は,さまざまな情報が事前に関連づけられて提示される力学が働いている現代においては,あらためて新鮮に感じられている。ここでは,「ものをならべる」ということの本質にせまる,近年のデザインやアート,思索上のこころみ三つを紹介する。
第1回 テクノロジーとしての歩行
文 : スコット・ジョセフ 訳 : 山本貴光
[書評]リチャード・マグワイア『HERE ヒア』日本語版
文 : 野中モモ
[書評]『C.E OWNER’S MANUAL』
文 : ばるぼら
最終回 2010年代前半のジン
インタビュー:山川正則(レトロ印刷JAM),伯田早奈恵(レトロ印刷JAM),MON(ZINE DAY OSAKA)
デザイン : 宮越里子
インフォメーション
新書体
ブック
the idea of music [021]
2002年,服部一成がギャラリーでの展覧会用に少部数制作した冊子『BETWEEN A AND B』の限定復刻版。
表紙デザイン:加藤賢策(LABORATORIES)
表紙:第27回ブルノ国際グラフィックデザイン・ビエンナーレ
「A Body of Work」会場写真
© 2016 Radim Peško & Tomáš Celizna
本誌376号におきまして以下の誤りがございましたので,訂正いたします。関係者ならびに読者の皆様にご迷惑をおかけいたしましたことを,ここに深くお詫びいたします。
p.152(『C.E OWNER’S MANUAL』キャプション)
誤:発行|BEAMS+C.E
正:発行|BEAMS